雅勒の散歩路

能面師「雅勒(がろく)」が 能楽・能面及び、花木や野鳥・蝶等に関するHP番外編の記事を
“散歩”のような気軽な気持ちで、不定期に掲載しています。

能・狂言 雑感

能・狂言における鬼 5

昨今の鬼ブームは、

能・狂言の世界にも影響を及ぼしています。

アニメの 「 鬼滅の刃 」 が

01.狂言「鬼滅の刃」_ポスター














狂言でも演じられるようになりました。 (゚ω゚)


では、

能や狂言における “ ” とは、

どんな存在なのでしょうか?


江戸時代の

正式な上演形式は一日五番と定められていました。

その上演形式を「 五番立 」といい


朝から晩まで一日を通して演じられていました。


朝日が昇ってきたときに行なう 

「 脇能(神能):一番目物 」  から始まって、

昼が過ぎ、陽が傾き暮れていくと、

うす暗い中で、

” が登場する演目になります。



” が登場する物語には、

いろんなパターンがあります。

最初は人間のふりをして出てきて、

旅の僧などと出会い、話をするうちに、

自分の正体を明かしていく “ ” のお話。

PB132318
能《紅葉狩》に使われる【 顰(しかみ) 】の面



女性が恨みつらみを抱いて変化(へんげ)して


11.鬼女遍歴

 鬼女の
 怨念レベル






怨念の果てに “ 鬼女 
 に変わってしまうお話。

12..生成


   今年の新作 ☞















13.般若(白)
怨念レベル_2  【 般若 】(中成)



P2264313a
怨念レベル_3  【 真蛇 】(本成)




能における人の化身・ “ ” の悲しみに対して、

狂言に登場する 鬼達 は陽気で、

生きていくことの素晴らしさを讃えます。







最初こそ人間に恐れられますが、

次第に滑稽で気弱 (ちょっとまぬけな様相) になり、

人間と同じように泣き笑う存在として描かれます。



4月の定例「 能面展 」で、

特別企画の『能・狂言の鬼達の面』コーナーで

これらの鬼面を展示いたします。




《節分》_蓬莱の鬼 5

2月3日、今日は “ 節分

窓をあけて元気に豆をまき、

邪を払い福と春を呼び込む「豆まき」が

本来の節分の行事ですが、

近年では恵方巻を節分の日に食べことが

すっかり定着しているようですね~


そこに登場するのが “


狂言の《 節分 》は、

狂言《節分》_富士見市民文化会館HP「万作の会」












節分の夜に、蓬莱の島 から来た 鬼 が、

ある家を訪れます。


留守番をしていた女に心を奪われた 鬼 は、

蓬莱の島 に流行る小歌を謡って言い寄りますが、

女は一向に受け付けません。

泣き出してしまった鬼を見た女は、

心を許したと見せかけて…。

の目にも涙  

強いはずの がかえって人間らしく描かれ、

弱いはずの人間の心に棲む鬼の姿を描いています。

【小豆武悪】_1
狂言《節分》に使われる面 【武悪】

【小豆武悪】_3












中国に起源を持つ “ 
鬼やらい ” の儀式で

豆を打たれて退散する は、

災いをもたらす “ 疫鬼(えきき) ” です。

一方、

春の初めに蓬莱の島から来る “ 春来る鬼 ” は、

人々に祝福を与える為に来る来訪神といわれます。


【鬼】_1
狂言《節分》で蓬莱の鬼に使われる【鬼】
【鬼】_2









【鬼】_3










 “ 
 ” を扱った狂言面は、

「凶悪さ」を排除しています。

鬼ではありますが、

造形的には完璧なまでに美しく、

ある意味、滑稽さを漂わせています。

節分_鬼











ところで、

恵方巻って、
 

恵方巻

 








来訪神を呼ぶ近代の習いなのでしょうかね~ 




< 過去の関連記事 >
 

   ・ 狂言「節分」と面(おもて)  ’11   2/1   ☞ こちら




狂言「節分」にみる、様々 5

二月は 節分 の月ですネ。


もともと、節分 とは、
各季節の始まりを表す節目の暦(こよみ)で、立春・立夏・立秋・立冬の前日のことですが、

江戸時代以降、立春は四季が一周りして新たな年が始まる日とされ、その前日が大晦日と同じ意味を持った 節分 とされたようです。


節分には、
あちこちで    にまつわる様々な行事が行われます。


春の初めに蓬莱(ほうらい)の島から来る、
春来る は、人々に祝福を与えるために来る
来訪神 と云われます。
一方、中国に起源を持つ鬼やらいの儀式で、豆を打たれて退散するのは、災いをもたらす 疫鬼(えきき) です。


能舞台で演じられる 狂言 節分 に登場する は、
女に島の宝物を授けて、来訪神のように振る舞いますが、最後には、疫鬼 として追い払われてしまいます。

留守宅を守る女房と とのやりとりの中で
人間の男として認めて貰おうと、必死で女を口説く の悲哀さや、
心に をまねく甘い誘惑に負けまいとする、女の駆け引きがみどころですが、

何事も、誘惑に負けずまめに働け


と説いているのです。

       ( 詳細は、狂言「節分」と面(おもて) を見て下さい



この狂言で鬼役が掛ける、【 武悪(ぶあく) 】の面(おもて)は、

buaku-yoko



武悪












滑稽さと悲哀さを表現するに相応(ふさわ)しい面です。




京都では、
この節分行事に様々な 節分狂言 が催されます。


京都の裏鬼門を守る壬生(みぶ)寺の 節分狂言 は、

  「 マメ(勤勉)に過ごせば、
      鬼(不幸)を追い払うことができる


と云う点では、
一般的に能舞台で演じられる 節分 と同じ筋書きです。

お祭り入門サイト_壬生狂言

  壬生寺の
  節分狂言 







           お祭り入門サイトより借用 


正式には 壬生大念佛狂言 と云い、
もともとは、仏教を民衆に分かりやすく教えようと、
身振り手振りで表現したことに始まると言われています。


また、
京都の各地で追われた鬼が逃げ込むとされる
北野天満宮では、

 福の神が豆をまいて鬼を退治する

と云う、
各家庭で行われている一般的な 豆まき   ですネ



ちょっと、変わった節分行事と云えば、
千本釈迦堂 の節分狂言でしょう。

  千本釈迦堂の建立時に、
  大工の棟梁(とうりょう)である夫を助けた妻“おかめ
  をまつり、
  節分行事では、おかめと鬼が境内を練り歩き狂言
  を演じます。
  まかれる豆に屈しない鬼たちも、おかめの美しい
  心に打たれて、優しく人を守護する鬼へと生まれ
  変わる。

と云う筋書きになっていますので、
ここでは、
お神楽の おかめ の面(めん)が主役となります。

webTOKK_おかめ







                webTOKKより借用 





各地方にも、様々な節分行事があると思いますが ・・・

どの地方の  達も、
誘惑に負けてしまう人間の心や、病気や不幸を象徴したものなのでしょうネ 

鬼は外、福は内 の気持ちは、
現代の日常でも、誰もが願っていることではないでしょうか 






 < 過去の関連記事 >
 
   ・ 狂言「節分」と面(おもて)  ’11   2/1   ☞ こちら




祝言能「高砂」と松 4

正月も “ 松の内 ” が過ぎると、気分的にも普段の日常が戻って来る様な気がしますネ~

えっ、
「 もう、とっくに 日常が始まっている ! 」 って  ・ ・ ・  
                              m(_ _)m

まっ、それは置いといて


松の内 というのはお正月の 松飾り を付けておく期間を云い、
最近では1月の7日まで のことをいうようですが、
本来は、小正月の15日までを 松の内 といいます。

江戸時代には、徳川幕府や諸藩から能楽師が抱えられ、正月などの祝賀の席では常に能や狂言が演じられていたそうですヨ~



今日は、
新年の にちなみ “ 相生(あいおい)の松 ” で知られている祝言能 《 高砂(たかさご) 》 のお話を少し ・ ・  ・

能絵_高砂







作者は世阿弥(ぜあみ)で、古今集にある
高砂 住の江の松も あひおいのやうにおぼえ』 を
原題としています。

昔から所の名木である を夫婦に見立て、相生の夫婦と祝い、
さらに国土安穏(こくどあんのん)・御代長久(みよちょうきゅう)を祝っています。

相生の松
        高砂市の高砂神社の相生の松 (web画像)

姥koushijyo








 【小牛尉(こうしじょう)】          【(うば)】   


また、後シテの住吉明神の謡には、
 
   われ見ても 久しくなりぬ 住の江の 
          岸の姫松 幾夜経ぬらん

 
その返歌である、
 
   (むつ)ましと 君は知らずや 瑞籬(みずがき)の 
               久しき代より 祝いそめてき

と、伊勢物語 からも引用がされています。


でも、
結婚式の祝言によく謡われる部分は、
 
   高砂や此(この)浦船に帆をあげて
        ・ ・ ・  早住の江に着きにけり
 
ですが、
能の中ではワキの待謡(まちうたい)なのです。

高砂の浦を出帆し住吉に着くまでの景色を謡った
もので、めでたい言葉はこの中からは感じられませんネ~


一説には、
徳川幕府時代に 高砂 の松が重用されて、
徳川 松平(徳川の本名)
        松 松は常盤 徳川の世の永続 
を願って、正月の幕府の謡初めでは、
 
    四海波静かにて 國も治まる時つ風  ・ ・ ・
 
から謡始める習いがあったようです。

これに顧慮(こりょ)して、庶民は待謡から始めたため、
「 高砂や~ 」 が祝言の謡となったとも言われています。




庵の松

  雅勒の庵の松は、
 “盆栽崩れ”の松です (笑)











ところで、
特有の芳香のある、松脂(まつヤニ) の香りって好きですかぁ~ 
                                
油絵の絵具の匂いを思い出しませんか 


でも、松脂
香水の成分の一つとして、主成分のテレビン油が用いられるそうです。

また、ギリシャのレッチーナ(Retsina)というワインは
松脂を香料として加えているそうですから
そんなに、毛嫌いする香りではないようですネ。

フランスには 松脂の香りのキャンディーがあったり、
松葉エキスを含む禁煙キャンディーも有るそうですから、
いずれ禁煙に臨む(まだ先ですが・・・)雅勒としては強い味方になりそうです。


日本でも、
錦松梅(きんしょばい)に入れる 松の実 も忘れてはいけませんネ~

ついつい、
香り ” から の方にいってしまう、雅勒 でした。







 < 過去の関連記事 >
 

   ・ 能楽「高砂」と面(おもて)  ’10   9/30   ☞ こちら




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