雅勒の散歩路

能面師「雅勒(がろく)」が 能楽・能面及び、花木や野鳥・蝶等に関するHP番外編の記事を
“散歩”のような気軽な気持ちで、不定期に掲載しています。

能と面の花物語

能楽「石橋」と牡丹 5

春の庭は、次から次へと趣(おもむき)を替えてくれます。

庵の庭は、木蓮も咲き終わり

ハナミズキの咲く木の下に、

4色の牡丹の花が咲き出しました。

牡丹(四色)


牡丹 は、

「百花王」,「花王」,「花神」,「花中の王」,「百花の王」

などの別名があるように、

まさに “ 王者の風格 ” を醸(かも)し出しています。



能楽の世界では、

牡丹と云えば、五番目物 “ 切能 ” の 《 石橋(しゃくきょう)

でしょう 

能絵
 
     牡丹の花がついた台が2台、舞台上に置かれます。
      これが 《 石橋 》 を表します。




平安時代の中頃(一条天皇の頃)

三河守(みかわのもり)を退官した大江定基(ワキ:助演者)

出家して寂昭(じゃくしょう) 法師と名乗り、中国・インドの

仏教遺跡を巡ります。

中国の清涼山(しょうりょうぜん)[現在の中国山西省]にある

石橋
のほとりにやって来ます。


石橋とは現世と浄土を繋ぐという有名な橋と聞いて

いたので、これがその橋かどうか人に尋ねようと、

誰か来るのを待っていると、

一人の【童子(どうじ)(前ツレ)が現れます。

童子
 ⇐ 童子】の面
 
  童子】は神性を持った
  少年神の化身として現
  れます

雄門会HP






                      祐門会HPより 




童子】は、橋の向こうは文殊菩薩の住む

浄土といわれる清涼山であると教えます。

寂昭法師がその橋を渡ろうとすると、

この橋は人間が渡した橋ではなく自然と現れた

もので、幅一尺(30cm)も無く、苔が生えて滑り易く、

千丈あまり(約3km)におよぶ谷の深さを見れば

足がすくみ、気を失うほどで、並の修行者では

渡れぬ橋だと説きます。


橋の向こうは花降り、

音楽が聞こえる文殊菩薩の浄土であるが、

その音楽が夕べの雲とともに聞こえてきたので、

ここで待てばやがて菩薩如来が現れるだろう 

と言って立ち去ります。




寂昭法師が待っていると、

やがて、橋の向こうから文殊菩薩の足元を守る

百獣の王の獅子(シテ:主役)の親子が現れます。

石橋(観世)_「能の世界」(平凡社)
         石橋(観世)_「能の世界」(平凡社)より 




獅子口
 ⇐ 親獅子の
  獅子口(ししぐち)】の面

獅子口-a








 
石橋(観世)親獅子_能面の風姿

  白頭(しろがしら)を付けた
         親獅子の舞
 ⇒








                     能面の風姿(東方出版)より 



小獅子
小獅子(こじし)】の面



小獅子-a







 
石橋(観世)赤頭_能面の風姿
  赤頭(あかがしら)を付けた
        小獅子の舞 ⇒










                   能面の風姿(東方出版)より 


香り高く咲き誇る百花の王・牡丹の花に戯れ、

石橋
の上で獅子舞を舞ったのち、もとの獅子の座、

すなわち文殊菩薩の乗り物に戻ります。

( 文殊菩薩は獅子の背にいつも乗っていて、
  文殊菩薩像の足元には必ず獅子がいます )



獅子舞は各地に残っています。

歌舞伎でも能 《 石橋 をもとにした

鏡獅子」、「連獅子」などは人気曲ですよネ




先月の “ 春の嵐 ” で折れた牡丹の蕾は、

とうとう開きませんでした。

きっと、

開花する力が残って無かったんでしょうか?  (>_<)


でも、

 “ 雅勒の庵 ” の庭の牡丹は見事の咲き誇って

いますヨ~ 

牡丹(白)
      花芯がほんのりとピンク色の白の牡丹
      落ち着いた色合いが “ 親獅子  ” に象徴されます。


牡丹(深紅)-a

      「太陽」と云う品種の深紅の牡丹
      情熱的な赤が、荒々しい “ 小獅子 ” に象徴されます。

      折れた枝は、この牡丹ですが、
      咲いたとしてもこの色合いは出なかったでしょうネ~


牡丹(ピンク)

               ピンク色の牡丹


牡丹(紫)
                
紫色の牡丹


唐傘牡丹
        牡丹の花は、雨に弱いので ・ ・ ・
        唐傘で無くて、すみません m(_ _)m    
             

牡丹(黄色) 
 今はまだ蕾ですが、
 1~2週間ほど遅れて
 黄色の牡丹も咲きますヨ~
 

       (昨年の画像)      










 《 石橋 》 は、能楽の五番立ての演能のあとに

めでたく結ぶ意で添えられる祝儀の曲でもあります。


雅勒の拙いブログ 『雅勒の散歩路』 も、

5月で一周年を迎えます。


             -  口 上 -

  いつもご来訪ありがとうございます。

  昨年の5月16日に最初のブログ記事を載せてから、
  もうじき一周年を迎えようとしています。

  当初、ホームページ 『 雅勒の庵 』 を開設しましたが、
  能面・狂言面も奥が深く、色々と学んだ事や補足的な事など
  日々の “ 憶え書き ” のつもりでグログも開設しました。
  又、能面師・雅勒の日常を、好きな花木を通して知って頂く為
  の情報発信としても使わせて頂いてます。

  これからも、
  拙い文章で、マイペースで掲載していきますので、
 
  「 隅から隅まで、ずずずいーーー っと 拍子木
             宜しくお願い申し奉り ます 」






        < シリーズ : 能と面と花 >
             ・ 第2回  能楽「桜川」と桜      ’11  4/ 1
             ・ 第1回
  能楽「東北」と梅      ’11  3/11



        < 過去の牡丹関連記事 >
 
           ・ 
嬉しい兆し            ’11  4/28
           ・ 
花に嵐               ’11  4/19



能楽「桜川」と桜 3

桜前線も序々に北上して来ていますネ~ 
 
 
桜に纏わる能の演目は、数多くあります。


 
桜を愛し、桜と共に生きた西行法師の春の夢の中

での桜の老木の精との出会いを演じる 《 西行桜 》 、

京都、墨染寺の桜が薄墨色になったと云う伝説を

テーマにした 《 墨染桜 》 、

他にも 《 吉野天人 》,《 鞍馬天狗 》,《 田村 》,

《 志賀 》 なども桜の美しさを語っている謡曲で

有名です。

また、《 熊野(ゆや) 》 では、

桜は単に美しいと云うだけではないく「無常」「悲しみ

の象徴としても扱っています。


雅勒 の住む、ここ茨城県にも

シロヤマザクラを中心とした「磯部の百色桜」で有名な

桜川市に、 《
桜川 》 と云う謡曲があります。

一般的に「桜」と云えば、ソメイヨシノでしょうけど、

こちらは「百色桜」と云われるほどに天然記念物の

白山桜 ” を中心に同じく天然記念物の “ 樺桜 ”,

大和桜 ” や “ 糸桜 ”など色々な種類の桜を

観ることができます。

白山桜(天然記念物)


   天然記念物の
     “ 白山桜






桜川は、平安の歌聖・紀貫之の和歌にも詠まれている

ことから、その昔名声が京の都まで届いていたことを

うかがわせます。

鏡ヶ池



  桜川の水源
   「鏡ケ池」




鏡ヶ池由来















さて、本題の四番目物(雑能)の謡曲 《 桜川 》 です。

九州日向国(今の宮崎県)の桜の馬場に住む

桜子(さくらご)は、東の国の人商人(ひとあきんど)

わが身を売り、その身代金と手紙を母に渡してくれ

と頼み、国を立ちます。

人商人から手紙を受け取った母が驚いてあたりを

見ると、もう人商人はいません。

母は嘆き悲しみ、氏神の木花咲耶姫(このはなさくやひめ)

我が子の無事を祈り、その行方を尋ねて旅に出ます。

柴田稔氏HP














                    柴田稔氏のHPより借用 



それから三年が経ち、

常陸国(茨城県) 桜川は丁度桜の季節です。

桜子は磯辺寺に弟子入りしており、

今日は師僧に伴われて近くの桜川という花の名所に

やって来ます。

里人は、桜川に流れる花をすくい網で掬(すく)って

狂う女がいるから、

この稚児に見せてやればよいと勧めます。


mugaumHP a








 ⇐ 花を掬う狂女




   桜川デジタルcom.mugaumHPより借用


呼び出された狂女は、九州からはるばる

この東国まで、我が子をもとめてやって来たこと

を語り、失った子の名も桜子、この川の名も桜川、

何か因縁があるのだろうが、

春なのにどうして我が子の桜子は咲き出でぬのか

と嘆きます。

深井
 桜子の母が掛ける
      【深井】の面
  (子供を持つ中年代
   の女性の顔をした面



mugaumHP








                             桜川デジタルcom.mugaumHPより借用 


更に、桜を信仰する謂(いわ)れ、我が子の名“桜子”の

由来、桜を詠じた歌などを語り、散る花をい上げ

興じ狂います。

僧はこれこそ稚児の母であると悟り、

母子を引き合わせます。

二人は嬉し涙にくれ、連れ立って帰国します。



  室町時代に、櫻川磯部稲村神社宮司が時の関東
  公方足利持氏に花見噺「桜児物語」を献上、これを
  基に、時の将軍足利義教が幽玄能の大家世阿弥
  元清に作らせた謡曲「桜川」です。



「桜川」にちなみ、庵の桜を紹介します。

早咲きの「鉢植え桜」です。 (笑)

鉢植えの桜


桜と蜜蜂



  蜜蜂も喜ぶ
  早咲きの桜




                      (クリックして見て下さい)



この桜、サクランボが成るんです。

この時期と5月に2度楽しめる「佐藤錦」ですヨ~

早咲き桜














サクランボ


  五月末に実る
  サクランボ 










お隣の福島県には日本三大桜の一つ、

「三春滝桜」があります。

地震と放射能被害が無ければいいのですが・・・

「三春滝桜」、

今年はどんな咲き方をしてくれるのでしょうネ?





        < シリーズ : 能と面と花 >
               第1回  能楽「東北」と梅      ’11  3/11


能楽「東北」と梅 5

能楽は室町時代の初期に猿楽師の世阿弥(ぜあみ)

とその父の観阿弥(かんあみ)によって

大成され現代に受け継がれています。

世阿弥の著書 風姿花伝 では “ ” という

言葉を広範囲に、様々な意味で使っています。


風姿花伝









たとえば、観客に感動を与える力の “ ” 。

少年は美しい声と姿をもつが、

それは「時分の花」に過ぎなく、能の奥義である

まことの花」は心の工夫公案から生まれるもの

と説いています。

また、

「花
面白き珍しき、これ三つは同じ心なり」

とも言っています。

人が舞台を観て発見する「珍しさ」、この感動が

「花」であり「面白さ」でもある ・ ・ ・ と


時分の花」、「声の花」、「幽玄の花」。

これらの “ ” は人の目にも見えるものであり、

その芸より出てくる花であり、自然に咲く花のごとく、

やがてまた散り失せる時が来る。 

能面を打つ側にとっても奥深く、参考になる教えです。




このシリーズでは、

雅勒の庵に咲く “ ” をテーマに能楽について

語ってみましょう。


第一回目は、今や盛りの 梅の花 です。

白梅








紅梅
  







       




今年は寒さのせいか、

花持ちが良く、紅白が揃って競うように咲いています。




三番目物(鬘物)の【東北(とうぼく)】は、

梅の木陰で見る春の夢に、

和泉式部が歌を詠み舞を舞います。


月岡耕漁「東北」能画










                   
                   月岡耕漁の能絵

春の都を訪れた旅の僧が、

東北院(とうぼくいん)に咲き誇る
梅の花に心を留めます。

そこに一人の女(前シテ)が現れて、

「それは和泉式部の愛した軒端(のきば)の梅」と教え、

自分は梅の主(あるじ)と云って消えてしまいます。

小面

 ⇐ 梅の主が掛ける
       小面
  (前場と後場で
    使われます)


『お能の見方』










その夜、梅の木陰で読経する僧達の前に、

和泉式部の霊(後シテ)が姿を現して読経に感謝して

今は歌舞の菩薩となったと語り、和歌の徳を述べて

優雅な舞を舞います。


     春の夜の 闇はあやなし 梅の花
           色こそ見えね 香やはかくるる
         
                    
                           
躬恒

そして、僧の夢が覚めるのでした。


紅白梅
















近年では、お花見と云えば桜ですが

遠い昔は

 “ ” といえば梅をさすほうが多かったそうです。

梅と桜、少しずれて咲いてくれて良かったです (^‐^)v






  メインHP「雅勒の庵」の “ 四季の庭_冬 ” でも
             梅の花 ” が観られますヨ 
⇒ こちら
 

  能・狂言面の詳細説明はHP『雅勒の庵』の「作品展示室
         (
http://www.net1.jway.ne.jp/k_garoku/gallery.html
                        を覗いてみて下さい。



記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

雅勒

メインHP ⇒ 雅勒の庵 』 

- - - - ’23 ( R.5 )- - - -
2/3 催し物情報に能面展告知 をアップ




- - - - ’22 ( R.4 )- - - -
12/18 青柳氏の【童子】をアップ
12/9 「作品展示室」に【真蛇】をアップ




お時間があれば、こちらもどうぞ


5月の能と花のイラスト
牡丹の花に戯れ舞



― 能「石橋」(能絵)-

能「石橋」 ☞ こちら     



― 菖蒲 -
イラスト「十五夜」 より☞ こちら    
アクセスカウンター
  • 昨日:
  • 累計:

       ( UUを表示 )

訪問有難う御座います ♪♪

雅勒の勝手な、お気に入り
能面師 中村光江 さん
 「能面の世界」

能面アーチスト 柏木裕美 さん
 「能面の世界」

和あらかると 岩田晶子 先生
 組紐教室

ノビタ さん 
 「ノビタの釣り天国」

シャンソン歌手:日野美子 さん
 ♪日野美子の日記♪

シャンソン歌手:別府葉子 さん
 葉子通信

小森真理子 さんの公式HP
 琴 ー 感動

ポピュラーピアニスト namiさんの
 咲花/nami ブログ

ROUGE(ルージュ) さんの
 額 ~薔薇の国星~

音霧 忍 さん
 季(とき)の庭

房総のままちゃん
 ご飯の後。

暇人haru さん
 趣味の歳時記

パラグライダー人生 稲垣 さん 
 「パラグライダー人生」

- - - - - - - - - - - - - - - - - - -
QRコード
  • ライブドアブログ