雅勒の散歩路

能面師「雅勒(がろく)」が 能楽・能面及び、花木や野鳥・蝶等に関するHP番外編の記事を
“散歩”のような気軽な気持ちで、不定期に掲載しています。

能と面の花物語

能楽「藤」 と 藤の花 5

ゴールデンウイーク(GW)ですネ~ 

あしかがフラワーパークでは、の観賞で

大賑わいではないかと思います。



雅勒の庵 の庭でも、

鉢植えの が満開を迎えています。

P4261326















P4261328























今回は、 にちなんだ能を紹介します。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


都からきた僧(ワキ)が、北国の名所を巡ったあと

善光寺詣でをしようと信濃の国に向かう途中、

の名所の越中の国、多枯(たご)の浦(富山県氷見市)

に立ち寄ります。


折しも、藤の花 の盛りであったので

僧が、松と交じって見事に咲いている 藤の花

見ながら

 「 おのが波に同じ末葉のしをれけり、
        咲く多胡の恨めしの身ぞ
」  新古今集 慈円

という古歌を口ずさみます。


すると、どこからともなく美しい女(前シテ)が現れ、

その歌はこの にふさわしくないと僧を咎め、

 「 どうして、そのように
  我が身藤の花)を卑しめるような歌を口ずさむのか 」

と問いかけてきます。


もっと相応しい古歌があると教えます。

 「 多枯の浦や汀(みぎわ)の咲きしより
          波の花さえ色に出でつつ



女は、

 「 自分はこの浦に咲く 藤の花 の精である 」

と言って、花の影に消えていきます。



若女 (2)
   藤の精 が懸ける女面



   【 若女 】 の面  
           (観世)


孫次郎





 ⇐ 【 孫次郎 】 の面 
              (金剛) 


節木増






   藤の精が懸ける
   【 節木増 】 の面
 
             (宝生)






       ・ ・ ・ ・ ・・  中間  ・ ・ ・ ・ ・


多枯の浦の にまつわる話を所の者から聞いた

僧は、

その夜、法華経をとなえてから、藤の花 の下で仮寝

していると、


僧の夢枕に 藤の精(後シテ) が現れ、

 「 読経のお礼に歌舞をなすために現れた 」

と告げ、

仏の功徳により花の菩薩になった事を感謝して、

美しい舞を舞って見せますが、


藤_金剛能楽堂【能への誘い】














                          金剛能楽堂【能への誘い】より


春の短い夜の明ける頃、朝霞と共に消えうせて

しまいます。


                    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



草木の精を主人公にした能は、

杜若(かきつばた) 西行桜 》 など多くありますが、

この 《 》 という曲目は純粋に “ ” の美しさを

表現している能です。


P4261330





ところで、雅勒 のGWは、

もっぱら、庭の花木を二階のベランダから愛でる

だけで終わってしましますネ~




  < シリーズ : 能と面の花物語 >
    
     ・ 第10回 双子の【小面】           ’13  5/24   ☞ こちら
      ・ 第 9回 能楽「箙(えびら)」 と 梅  ’12 3/ 8   ☞ こちら     

     ・ 第 8回 能楽「紅葉狩」 と 紅葉   ’11 11/11   ☞ こちら
     ・ 第 7回 能楽「菊慈童」 と 菊花   ’11 10/20   ☞ こちら
     ・ 第 6回 能楽「井筒」 と 尾花     ’11 9/ 2   ☞ こちら
     ・ 第 5回 能楽「半蔀」 と 夕顔       ’11 8/ 4   ☞ こちら
     ・ 中間   狂言「千鳥」 と 千鳥草     ’11 6/23   ☞ こちら 
     ・ 第 4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?    ’11 6/17  ☞ こちら 
     ・ 第 3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
   ’11 5/ 6   ☞ こちら 
     ・ 第 2回 能楽「桜川」 と 桜    
    ’11 4/ 1   ☞ こちら
     
・ 第 1回 能楽「東北」 と 梅        ’11 3/11   ☞ こちら

双子の【小面】 4

双子の 小面(こおもて) の彫りが完成しました。


以前から頼まれていたものと、

先月の能面展で新たに頼まれたもの、

二面を一気に彫り上げました。


小面 追い彫り です。


小面、2面_5.23



どっちがお姉さんか って ??


小面、2面_5.22





 


              面裏の漆処理が完了した状態




左の 小面 が、お姉さんですネ。

10日程早く彫りあがったので ・ ・ ・ (笑)




さて今回は、

久々に 能と面の花物語 です。


鬘能(かずらのう 三番目物)に、

霊に憑かれた菜摘女 静御前(しずかごぜん) の亡霊が、

美しい装束を身に纏い、

寸分違わず相舞う曲があります。


静御前 の義経への恋慕の情を見せる美しくも

幻想的で不思議な曲の 二人静 のお話です。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


大和の国、吉野の菜摘川で、

神事に供える若菜を菜摘女(ツレ)が摘んでいると、

一人の里の女(前シテ)が現れ、

吉野に帰ったら神職に一日写経して

自分を供餐してくれるよう伝言して欲しいと云います。



小面
 菜摘女と静の霊が
 懸ける 小面
 






 双子の 小面
 のモデル面
 
  赤鶴の【 小面 】写し



菜摘女が名を間うと、里の女はそれには答えず、

 「 もし疑う人があれば、
   その時自分があなたに憑いて名を明かす 」 と

言い残して、消えうせます。



       ・ ・ ・ ・ ・ ・  中間  ・ ・ ・ ・ ・ ・


立ち帰った菜摘女は神職に話しますが、

神職が、ふと疑いの言葉を漏らしてしまいます。


するとたちまち菜摘女に霊が取り付き、

神職が霊に名を問うと 静御前 であると

ほのめかします。


静御前 の霊であると知った神職は、

舞を所望し、跡を弔うことを約束します。



取り憑かれた菜摘女が昔の舞衣装をつけて

舞いはじめると、

静の亡霊(後シテ)も同じ衣装で現れ、

影の様に舞ます。

futarisizuka[1]







    菜摘女と静の
    霊の相舞



                                   
                                    
                               Webサイトより借用


二人は義経の吉野落ちの様子を語り、

源頼朝の命で舞った「序之舞」を再び舞って見せ、

回向を頼んで霊は消えます。


  『 物ごとに憂き世のならひなればと、
     思ふばかりぞ山桜、雪に吹花の松風、
     静の跡を弔ひ給へ、静の跡を弔ひ給へ




                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



能の物語は、

正月七日の神事の為の菜摘時期ですが、

今、近くの山では 二人静 が咲いています。

二人静_5.23a







 千両(せんりょう)科の多年草

 2本の花穂の先に米粒の様な
 白花(雌しべを包む雄しべ)をつける。

 
  

二人静_5.23b











 


二本の花穂を 静御前  その亡霊の舞い姿に喩えて

名付けられた野草です。


ひっそりと咲くの花は

四枚の葉の上に、白い花穂が仲良くニっ寄り添うよう

に咲いています。



吉野の山奥で、

源頼朝に追われて奥羽に逃れる源義経と、

静御前
は涙の別れをしました。

そのあとに咲いたのがこの花であるとか ・ ・ ・ 




確か、

中森明菜の歌に 二人静 と云う曲が有りましたネ~

  「 殺(あや)めたいくらい 愛し過ぎたから ・ ・ ・
    添い寝して 永遠に抱いていてあげる ・ ・ ・

艶っぽい低音、

恐ろしくも悲しい女心は、演歌の心境です。





双子の 小面 は、近々嫁入りです。

面裏の漆(うるし)が完全に乾いたら、

嫁入り前のお化粧(彩色)を施します。


どんな、表情に仕上がりますかネ~








  < シリーズ : 能と面の花物語 >
    
     ・ 第9回 能楽「(えびら)」 と 梅  ’12  3/ 8   ☞ こちら
     ・ 第8回 
能楽「紅葉狩」 と 紅葉   ’11 11/11   ☞ こちら
     ・ 第7回 能楽「菊慈童」 と 菊花   ’11 10/20   ☞ こちら
     ・ 第6回 能楽「井筒」 と 尾花     ’11 9/ 2   ☞ こちら
     ・ 第5回 能楽「半蔀」 と 夕顔      ’11 8/ 4   ☞ こちら
     ・ 中間  狂言「千鳥」 と 千鳥草     ’11 6/23    ☞ こちら 
     ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?    ’11 6/17    ☞ こちら 
     ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
  ’11 5/ 6   ☞ こちら 
     ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜    
   ’11 4/ 1   ☞ こちら
     
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅       ’11 3/11   ☞ こちら



能楽「箙(えびら)」 と 梅 3

今年の冬の寒さは、

今までになく厳しさが永く続いたように感じますネ。


いままでは、暖冬の年が多く冬の寒さが

短く感じられたのですが ・ ・ ・

まあ、

これが本来の冬の寒さかもしれませんネ。



庵の庭の梅も、

例年に比べると一ヶ月近く開花が遅れていましたが、

ようやく 紅梅 の蕾が弾けました。

紅梅_3.08

 待ちわびた
 梅の開花










でも、“ 白梅 は未だ蕾の状態です。

白梅_3.08

   白梅の蕾 ⇒







いままでのこの季節は、

紅白の梅 が満開で、温かな気候が続いて

気持ちも穏やかになれたのですが ・ ・ ・

昨年の 大震災 を経験してからは、

この時期

 “ 心、穏やかならず といった心境です。


こうして、ブログを綴っていると、

昨年のこのシリーズ初回のブログが鮮明に

思いだされます。

能と面の花物語 」 で能 東北(とうぼく)

物語をアップしたその日の午後に、

あの大震災が起こったので何か因縁めいた

気もします。


東北 は、

あの東北地方とは全く関係無く、

京都の東北院の梅に纏わる物語なのですが

いみじくも、二文字が一致してしまいました。




そんな、3月の「 能と面の花物語 」、

今年は少し気分をかえて、

能の中の“勝修羅(かちしゅら)” 物をお届けします。



(えびら) というのは、

矢を入れて肩や腰に掛け、携帯する容器のこと。

箙を付ける


   (えびら)


箙








 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


時は早春の頃。

場面は、西国(九州)の僧(ワキ)が都見物 のため

京へ上る途中、須磨の浦の生田(いくた)の古戦場に

差し掛かるところから始まります。



旅の僧は、生田川のほとりで、

武士の略礼装である素襖(すおう)を着て、

じっと 梅の花 を眺めている男(前シテ)と出会います。
 

その男は、
 
生田川での源平の合戦の折、

梶原景季(かげすえ)が風雅に梅を箙(えびら)にさして

戦った話や、景季の活躍にちなんで、

この梅を 箙の梅 と呼んでいる ことを語ります。




旅僧が一夜の宿を男に所望すると、

男は
 
私はこの梅の主で、梶原景季の亡霊なのだ 」 と
 
正体を明かし、どこへともなく消えて行きます。




今度は、

生前の戦(いくさ)装束で僧の前に再び現れ(後シテ)
ます。


赤平太a

  後シテの景季の
  亡霊
が懸ける 
  【赤平太】の面 ⇒






月岡耕漁_能絵(箙)





 梅の花枝を挿した
 後シテが登場
 




 月岡耕漁の能絵(Web画像



殺生(せっしょう)を生業(なりわい)とした

武士の宿命として、

修羅道に堕ち苦しんでいる様を僧に見せ

回向(えこう)を頼み、朝日とともに姿を消す。




                     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


    


この の謡曲の中に、
 
   飛花落葉の無常はまた、
        常住不滅の栄をなし ・ ・ ・
 
とあります。


昨年のこの月に起きた“天災地変”は、

まさに、“  飛花落葉(ひからくよう) ” のごとく

絶えず移り変わるこの世の、

無常さを思い知らされます。





  < シリーズ : 能と面の花物語 >
    
    ・ 第8回 能楽「紅葉狩」 と 紅葉   ’11 11/11   ☞ こちら
     ・ 第7回 能楽「菊慈童」 と 菊花   ’11 10/20   ☞ こちら
     ・ 第6回 能楽「井筒」 と 尾花     ’11 9/ 2   ☞ こちら
     ・ 第5回 能楽「半蔀」 と 夕顔        ’11 8/ 4   ☞ こちら
     ・ 中間  狂言「千鳥」 と 千鳥草       ’11 6/23   ☞ こちら 
     ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?    ’11 6/17  ☞ こちら 
     ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
  ’11 5/ 6   ☞ こちら 
     ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜    
   ’11 4/ 1   ☞ こちら
     
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅       ’11 3/11   ☞ こちら





能楽「紅葉狩」 と 紅葉 5

茨城の紅葉前線も

序々に山間から平地に移動して来る頃です。

今、袋田の滝 の紅葉が見頃に入ったとか ・ ・ ・


くしくも、

震災の日からスタートしたこのシリーズもいよいよ

大詰めに入り、切能(五番目物) 紅葉狩 で、

このシリーズを締めたいと思います。

能絵_紅葉狩(11月)










・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

長月(旧暦9月)と云いますから、新暦では10月です。

燃えるような 紅葉 が美しい、とある山中にて。



夕暮れ時に、

高貴な風情をした女(シテ)が侍女を連れて、

山の紅葉を愛でようと幕を打ち廻らして、

宴を催していました。


そこへ、

馬に乗って鹿狩に向かう 平維茂(たいらのこれもち : ワキ

の一行が通りかかり、女達を気遣って馬を下り

(くつわ)
を脱いで通り過ぎようとします。


気づいた女たちに 是非ご一緒に と誘われるまま、

宴に加わります。

京都光華女子大HP









          京都光華女子大のHPより ↑
   右端の 維茂 はワキなので、直面(ひためん:面を掛けない)です



高貴な風情の女はこの世の者とは思えぬ美しさで、

維茂
は美女の酌(しゃく)に心躍らせ、酔いに身を

任せてしまいます。


万媚 
 各流儀とも、
  【 増女 】を使いますが、

 ⇐ 艶やかな表情を持つ
   【 万媚(まんぴ) 】の面
   もふさわしいでしょう。



シアターガイド_なかのZERO










                シアターガイド・なかのZEROのHPより ↑



小面
 ⇐ 大勢出る、侍女(前ツレ)
   は【 小面 】 でツレの分
   を守ります。









img156







 

 
             「能ガイド 90番」(成美堂出版) より ↑



月の光のもと、女が優美な舞い(序之舞,中之舞)を舞う

うちに 維茂 は寝入ってしまいます。

その様子を見届けた女達は、突然に怪しげな様子を

見せて姿を消してしまいます。





ちょうどその頃、

石清水八幡宮に仕える末社(まっしゃ)の神(武内の神)が

その山への道を急いでいました。

その山とは、信濃国戸隠山で、

維茂
を篭絡(ろうらく)した女は、戸隠山の鬼神だった

のです。



さて、維茂 が夢から覚めると、

山中には稲妻が光り雷鳴がとどろき、不気味な風が

吹いていました。

やがて、身の丈一丈(約3m)もの鬼女が姿を現し、

維茂
に襲いかかってきます。

顰(しかみ)


 ⇐ 後シテ・鬼神を男と解釈
   する場合は【 (しかみ)
   の面を掛けます。








般若-a
 ⇐ 後シテを女の鬼神と解釈
   する場合は【 般若
   の面を掛けます。


pingmag_HP








                     PingMagHPより ↑


img157
 
   “ 鬼揃い の場面   「能ガイド 90番」(成美堂出版)より 



維茂 は勇敢に立ち向かい、激しい戦いの末に、

みごとに神剣で鬼女を退治するのでした。



   登場人物が多く、物語が進むにつれて状況が明らかになる、
   と云うスぺクタル劇は子供から大人まで皆で楽しめますネ~


   紅葉狩 》 でした。 


                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


平安時代の頃は、

10月にはもう紅葉時期になっていたのですネ 

いまの時代では、

関東以西では11月にようやく紅葉の見られる気候に

なってしまったようです。 (>_<)





庵の庭には、一本の もみじ の木がありますが、

紅葉は期待できません。 

そう、“ あおもみじ ” を楽しむ木です。

春のあおもみじ

 初夏の
 “ あおもみじ










これでは、ちょっと寂しいので

とっておきの画像を披露しますネ。



数年前、千葉の 養老渓谷 の近くで撮影したものです。

あおもみじ ” と真っ赤に紅葉した2本の もみじ

の木が印象的でした。




あおもみじ越の紅葉

 “ あおもみじ ” の木の
  向こうに紅葉が ・ ・ ・





紅葉






 ⇐ 裏に
   廻ると・・











紅葉a


見事でしたぁ~ 










  < シリーズ : 能と面の花物語 >
        
     ・ 第7回 能楽「菊慈童」 と 菊花   ’11 10/20   ☞ こちら
     
・ 第6回 能楽「井筒」 と 尾花   
 ’11   9/ 2   ☞ こちら
     ・ 第5回 能楽「半蔀」 と 夕顔     ’11   8/ 4   ☞ こちら
     
・ 中間  狂言「千鳥」 と 千鳥草    ’11   6/23    ☞ こちら 

     ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?    ’11   6/17    ☞ こちら 
     ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
  ’11   5/ 6   ☞ こちら 
     ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜    
   ’11   4/ 1   ☞ こちら
     
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅       ’11   3/11   ☞ こちら



能楽「菊慈童」 と 菊花 5

そろそろ、

北の方からは紅葉の便りもちらほらと ・ ・ ・


ようやく、気候も秋らしくなり、

昨日あたりから肌寒ささえ感じる程になりましたネ~
                               


旧暦の9月9日(今年は新暦の10月5日)は、

ちょうどこの季節に菊が咲くことから、

菊の節句(重陽の節句)と呼ばれ、

この日は前日に菊の花の上に置いた綿(着せ綿)

染み込んだ露で体をぬぐったり、

花弁を浮かべた菊酒をいただいて長寿を願う

習慣があります。


この時期の能は、やはり

四番目物(雑能)の 菊慈童(きくじどう) でしょう。


 
菊慈童 は、観世流の謡曲名ですが、

他四流(宝生,金春,金剛,喜多)の

枕慈童(まくらじどう) とほぼ同じ内容の演目です。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ところは古代中国の魏(ぎ)の文帝の時代と

いいますから、三国志の時代です。


麗縣山(れっけんざん)の麓から、“ 薬の水 ” と云われる

不思議な水が湧き出す源をさぐるために、

魏の文帝の勅命を受けて臣下(ワキ)が、

深山に分け入り水源を訪れます。


勅使が辿りついた処は、

菊の花 の咲き乱れる仙境でした。


勅使の一行は、菊の花の咲き乱れた山中の庵に、

一人の美しい不思議な少年(シテ)
を見つけます。

能絵_菊慈童(10月)








その美しい少年は、

周の穆王(ぼくおう)の時代に、

誤って帝(みかど) ” の上を跨(また)いだために、

遠流(えんる)の刑に処され、

700年もの間老いることなく生き続けてきた 

と云うのです。

しかし、少年に悪意のないことを知って憐れんだ王が、

その枕に法華経普門品(ふもんぼん)の妙文(みょうもん)

書き添えて与えました。


慈童(横)_栗原さん

シテの少年が、
  掛ける【 慈童 】 の面
  (観世流の演目)

  少年の顔立ちの中
  に大人びた表情を
  のぞかせています


菊慈童_img
 
  
  ↑ 能面教室の
     栗原冨美子さんの作品








そのありがたい経文を忘れないように 菊の葉

書き写すと、

その葉から伝わって流れる露が霊薬(れいやく)となり、

それを飲んでいた少年は700年後の今でも、

若いままで生き永らえていたのです。



秋の夜長、

少年自身も、自分の長命に驚き、

菊水を掬(すく)い菊花に戯れながら楽しく舞を舞った後、

残りの寿命を帝に捧げて、庵の中に姿を消します。


童子
枕慈童 》では、
  童子 】 の面が
  掛けられます。


   透き通るような白い肌に
   若い女面を想起させる
   優雅な顔立ちの面です


粟谷能の会HP











 
                                   栗谷能の会HP より




実はこの 菊の水 」、

“ お酒 ” なのだとも言われています。



    《 枕慈童 は、時代背景
が漢の時代となっていて、
    時の隔たりは800年であったり、
舞いの動機が
    遠来の客人である勅使たちをもてなすために舞うなど、
    若干の相違はあります。

                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




菊には、

昔から不老不死の効能があると信じられていて、

この故事に由来する 菊慈童 を描いた有名な

絵画も多いですね。

横山大観の菊慈童
 ⇐ 横山大観の
    「 菊慈童





菱田春草の菊慈童






         菱田早春の
           「 菊慈童 」 ⇒










新暦の現在では、

秋の菊の開花時期は10月後半ですので、

これから、あちこちで 菊花 の催しが始まります。


では、

雅勒の庵の 小菊 は? と云うと

小菊の蕾_a
 この通り、
  まだ蕾です 



 





ご近所の庭先では、

こんなに見事に咲いているのにぃ~ (>_<)

近所の小菊_a

  スプレー菊(黄)
  早咲きの小菊

近所の小菊






  きっと、
  日当たりと肥料が
  いいんでしょうネ









今や、日本は世界一の長寿国となっていますが、

生かされての長寿ではなく、

美味しいお酒が飲めて、美味しい料理が味わえて、

四季の花木を愛でられるような 気持ち 体力

維持出来る長寿を期待したいものですネ 







   < シリーズ : 能と面の花物語 >
        
      ・ 第6回 能楽「井筒」 と 尾花   ’11 9/ 2   ☞ こちら
      ・ 第5回 能楽「半蔀」 と 夕顔   ’11 8/ 4   ☞ こちら
      
・ 中間  狂言「千鳥」 と 千鳥草 ’11 6/23    ☞ こちら 

      ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲? ’11 6/17   ☞ こちら 
      ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
’11 5/ 6   ☞ こちら 
      ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜    
’11 4/ 1   ☞ こちら
      
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅     ’11 3/11   ☞ こちら






能楽「井筒」 と 尾花 5

秋ですネ~

でも、残暑やら台風接近で落ち着かない日が

続くようです。 


こんな夜は、

物悲しい秋の夕暮れに揺れる “ 尾花〔ススキ〕 ” を

見ながら気持ちを癒してみてはどうですか 


能の演目で、もっとも幽玄味のある鬘物(三番目物)、

その中でも 《 井筒(いづつ) 》 は最高の演目とも

云われています。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ある秋の大和の国の在原(ありわら)寺。

廃墟となったこの寺に、諸国を旅する僧が

初瀬参りの途中に立ち寄ります。

かって、ここに住んでいた在原業平(ありわらのなりひら)

妻の瞑福を祈っていると、

僧の前に仏に手向ける花水を持った里の女(前シテ)

が現れます。

 
若女
シテの里の女が、
  掛ける【 若女 】 の面


  流派により
  【 小面 】や【 増女
  の面の使用されます


「能楽十番」(平凡社)_井筒




       井筒の陰から
       現れた里の女  ⇒


 
 
                              「能百十番」(平凡社)より ↑ 




僧に問われるままに、業平と紀有常(きのありつね)

娘の恋物語を語ります。


幼い頃に井戸で背比べをした二人は、

成人して歌を詠み交わして結ばれた、と云う。


   つつゐ
つの 井筒にかけし まろがたけ 
           過ぎにけらしな 妹見ざるまに

   〈返し〉 

   くらべこし ふりわけ髪も 肩過ぎぬ 
           君ならずして たれかあぐべき



女はみずからを、紀有常の娘であると明かして

井筒の陰に姿を隠します。



秋の月の冴える夜、僧が仮寝をしていると

業平の形見の冠(かんむり)に直衣(のうし)を身に

付けた紀有常の娘の霊(後シテ)が現れます。

女の霊は業平を恋い慕いう序之舞を舞い、

さらには、井戸を覗き込み水鏡に恋人の面影を

見るのでした。


井筒_能面の世界(平凡社)



  冠に直衣を身に付けた
  紀有常の娘の霊  







                       


                                      「能面の世界」(平凡社)より ↑ 



やがて夜明けを告げる鐘がなり僧の夢が覚めると、

あとには松ヶ枝や芭蕉葉を渡る風の音が響く

だけでした。


                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


この 《 井筒
》 の舞台では、

ススキをつけた井戸の作り物が出され、

淋しい秋の夜の古寺を表現しています。
 文化デジタルライブラリー











雅勒の庵 の片隅にも、“ 尾花 ” がありますヨ~

(ふ)入りのススキで、

昔は矢羽根模様がはっきりしてましたが、

この株も老化してきているのか? 

麩模様がボケてきてますネ~
 (>_<)

ススキの穂

麩入りススキ


















麩模様













(おもて)の話に戻ります。

喜多流の粟谷明生氏のHPで、こんな記事が

掲載されていました。

   《 井筒 のシテの面は喜多流では通常「小面」ですが、
   今回は【 宝増(たからぞう) を選択しました。
   かわいらしい女だけでは井筒の女を表現できないからです。
 
    ・・・・
 
   つまり 井筒 という作品に漂う「待つ女」の錯綜(さくそう)
   した内面は若い姿では表せない ・・・





この内容に、心動かされ今年初頭から【 宝増 】の

面打ちを始めたのですが

震災とか猛暑で気持ちが萎縮してしまい、

手つかずのままにしておいたものをようやく

を完成させました。


宝増


 彫の完成した
   【 宝増











 
宝増_裏


  面裏に雅号を
  入れて完成です。
 





中秋の名月までには、

彩色を施して完成させたいものですネ~

でも、「待つ女」の表現が出来るかナ~ ??











   < シリーズ : 能と面の花物語 >
        
      ・ 第5回 能楽「半蔀」 と 夕顔   ’11 8/ 4    ☞ こちら
      ・ 中間  狂言「千鳥」 と 千鳥草  ’11 6/23    ☞ こちら 

      ・ 第4回 
能楽「杜若」 と 菖蒲?  ’11 6/17   ☞ こちら 
      ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
’11 5/ 6     ☞ こちら 
      ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜     
’11 4/ 1      ☞ こちら
      
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅     ’11 3/11    ☞ こちら




能楽「半蔀」 と 夕顔 4

また、暑さが戻ってきました。 


緑のカーテン ” が、効力を発揮しています。


緑のカーテン ”と云えば、

昔は 朝顔 や ヘチマ や 瓢箪(ひょうたん)でしたが、

今では食のブームも相まって、“ ゴーヤ(にがうり)

が人気ですネ~ 



ところで、「半蔀(はしとみ)」ってご存知ですか 

上半分を外側へ吊り上げるようにし、

下半分をはめ込みとしたものを蔀戸(しとみど)と云います。

そこに、

朝顔 や ヘチマ や 瓢箪の弦を這わせて、

涼を取っていたようです。

いまでは、あまりみられない光景ですが、

元祖 “ 緑のカーテン ” です。


半蔀のイメージ
   平安時代から始まった
   建築用法の 半蔀

   こんなイメージです ⇒ 






今回は、

源氏物語でお馴染みの 「 夕顔 」 に纏(まつ)わる

能楽
半蔀 》 の花物語です。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

京都は、北山・紫野(むらさきの)の雲林院(うんりんいん)

そこに住む僧が、

夏安居(げあんご)の法要(夏の九十日間籠もる座禅行)

終わりに、毎日供えてきた花のために立花供養を

行っていました。

すると夕暮れ時に女がひとり現れ、

一本の白い花を供えました。

僧が、「ひときわ美しく可憐なその花の名は何か」

と尋ねると、

女は “ 夕顔 ” の花であると告げます。

更に「私は五条あたりに住んでいる者で、

この立花の陰から来ました」 と言い残して、

再び立花の中に消えてしまいます。


節木増 ⇐ 宝生流で、
  夕顔の霊が掛ける
  節木増 】 の面

  鼻の付け根辺りに
  節があり、
  節からのヤニ後が
  景色となっている。


孫次郎



  金剛流では、
  孫次郎 】の
  面が掛けられる   ⇒





     ( 他の流派では、【 小面 】、【 若女 】 などが掛けられる )




里の者から

光源氏 夕顔の君 の恋物語を聞いた僧は、

さきほどの言葉を頼りに五条あたりを訪ねます。

そこには、昔のままの佇まいで半蔀に夕顔が咲く

寂しげな家があり、

僧が菩提を弔おうとすると、

半蔀戸(はしとみど)を上げて 夕顔の霊 が現れます。


img157













 
                 「 能百十番 」(平凡社) より



夕顔の霊は、

かつて、香を焚(た)き染(し)めた扇子に乗せた

夕顔の花 ” を贈った 光源氏 との恋の思い出を語り、

(序之舞)を舞うのでした。

img156














                             「 面からたどる能楽百一番 」 より


そして僧に重ねて弔(とむら)いを頼み、

夜が明けきらないうちにと 半蔀 の中へ戻って

いきます。



そのすべては、僧の夢のうちの出来事でした。


                          (  観世流は 「 はじとみ 」 と読みます )
 
                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



雅勒の庵には、 “ 夕顔 ” は有りませんが、

朝と昼の2つの “ ”が咲いています。

朝顔
 ⇐ 朝の顔
  朝顔 】 です。










朝顔a
 庭が狭い時は
 盆養作り
 いいですネ  ⇒











意識して、植えたのではないのですが、

いつからか咲くようになりました。

昼顔
 ⇐ 昼の顔
  昼顔 】 です。













ちなみに、夕暮れ時から咲きだし、

翌朝には萎んでしまう 【 夕顔 】 とはこんな花です。

夕顔

 ⇐ 白ウリの花を
  夕顔 】 と云うよう
  です。


  干瓢(かんぴょう)に
  する丸ユウガオとは
  違う種類のようです。


 ( Webサイトより借用 )


源氏物語の 「 夕顔 」 は

こんなイメージだったんでしょうネ 






朝・昼・夕 ときたら、

やっぱり “ 夜の顔 ” もあるのかな 


と思ったら、有りましたヨ~


夜顔

 観賞用の
 【  ヨルガオ
 ⇒








                                             ( Webサイトより借用 )


ヨルガオのことを「ユウガオ」という人も多いよう

ですが、ウリ科の「ユウガオ」と異なり、ヒルガオ科

で観賞用だそうです。




来年は、

朝・昼・夜 と、三つの顔の花を揃えてみたいですネ~ 







   < シリーズ : 能と面の花物語 >
        
      ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?  ’11 6/17   ☞ こちら 
      ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹  
’11 5/ 6   ☞ こちら 
      ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜    
’11 4/ 1   ☞ こちら
      
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅     ’11 3/11   ☞ こちら



狂言 「千鳥」 と 千鳥草 4



梅雨の一時の晴れ間に、
カラッとした笑いの “ 狂言 ” はいかがでしょうか 


そろそろ、千鳥 の群れ遊ぶ海辺の潮風が欲しい時期でもありますし~

Wikipedia
 ⇐ 浜千鳥



千鳥イラスト





 Wikipedia より


日本では万葉の時代より、
水辺に群れる小鳥たち、とりわけチドリなどの仲間を
千鳥 と呼び、親しんできたようですネ。

多数が群れることを 千の鳥 」 ともいい、また「」は鳴き声に由来するとも云われます。



古くは
万葉集でも、千鳥 を詠み込んだが多数知られています。

     淡海(おうみ)の海(み)
        夕波千鳥(な)が鳴けば
           心もしのに(いにしえ)思ほゆ

 
                   - 柿本人麻呂


また、古今和歌集と金葉和歌集の 千鳥 を詠んだ歌を元にした箏曲 「 千鳥の曲 」 も有名ですネ~ 




狂言にも 《 千鳥 》 と云う演目がありますよ 


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

太郎冠者(たろうかじゃ:シテは、
主人から、またツケで酒を買って来いと命じられます。

その酒屋には支払いが溜まっているので、
「 今までのツケを払わなければ酒はやれない 」 と
言われます。

太郎冠者は
「 今日の酒樽分の代金は持参したから 」 と
酒樽を出させました。



茂山千五郎家-a








  

              茂山千五郎家HPより借用 ↑


そして最近、来なかったのは主人のお供で尾張の津島祭を見物に行ったからで、
「 それはそれは面白い祭りであった 」 と語ります。


そう聞かされた話好きの酒屋は、
祭りの様子が聞きたくて話しに引き込まれて行きます。


祭りへ行く途中の伊勢の浜辺で、子供が被せ物をして、千鳥 を捕まえる様子を話します。

酒屋に 「 浜千鳥の友呼ぶ声は~ 」 と囃させ、
自分は 「 チリチリヤ、チリチリ 」 と謡いながら ・ ・ ・

酒樽を 千鳥 に見立てて持って行こうとするが、見咎(みとが)められてしまします。

茂山千五郎家









                 茂山千五郎家HPより借用 ↑


次に津島祭で山鉾(やまほこ)を引き回す様子を見せようと、
これも酒樽を山鉾に見立てて綱で引き寄せますが、成功しません。

最後には流鏑馬(やぶさめ)の模様に話を替え、
馬に乗った振りをして走り回りながら、やっとのことで酒樽を奪って逃げだします。


「 何とも、またしてもやられた 」  と、
気が付いた酒屋は、
「 やるまいぞ、やるまいぞ、・・・ 」  と
云いながら太郎冠者を追い込みます。

                    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



さて、
狂言の 《 千鳥 》にはまったく関係ないのですが、
千鳥 ” つながりで、庵に咲く 千鳥草(ちどりそう) を紹介しましょう。


千鳥草_紫   紫の千鳥草

千鳥草_紫a











千鳥草_白
  白の千鳥草






 蕾も鳥の姿ですネ
千鳥草_蕾









この花、古風な名前ですが
実はヨーロッパ原産の洋花のデルフィニウムですヨ~ 

別名で 「 飛燕草(ひえんそう) 」 とも呼ばれます。


キンポウゲ科の一年草で、
毎年この時期にこぼれた種子から涼しげな花を咲かせてくれます。





   < 過去の関連記事 >         
      ・ 狂言「節分と面(おもて)   ’10 2/1   ☞ こちら 


   < シリーズ : 能と面の花物語 >
        
      ・ 第4回 能楽「杜若」 と 菖蒲?  ’11 6/17   ☞ こちら 
      ・ 第3回 能楽「石橋」 と 牡丹   
’11 5/ 6     ☞ こちら 
      ・ 第2回 能楽「桜川」 と 桜       
’11 4/ 1     ☞ こちら
      
・ 第1回 能楽「東北」 と 梅       ’11 3/11   ☞ こちら



能楽「杜若」 と 菖蒲? 4

『 いづれ 菖蒲(あやめ) 杜若(かきつばた)

「 あやめ 」 と 「 かきつばた 」 、いづれも

同じアヤメ科の花で、区別しにくいですネ~ 


雅勒の庵の庭に、今咲く花はいづれかな 

18

キショウブ










花菖蒲(はなしょうぶ) 」 と 「 黄菖蒲(きしょうぶ)
」 ですヨ~ 




さて今回は、能楽三番目(鬘物)の演目で、

この時期にぴったりの能楽 《 杜若
》 の花物語です。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


諸国を巡る僧が、三河国 [現在の愛知県の東部] に着き

沢辺に咲く 杜若(かきつばた) を眺めていると、

ひとりの里女が現れて、

「 ここは 杜若 の名所で八橋(やつはし)という処」  と

教えます。



僧が

「 八橋は、古歌に詠まれたと聞くが ・ ・ ・ 」 と水を

向けると

女は、

在原業平(ありわらのなりひら)が  『 かきつばた 』 の

五文字を句の上に置き

    らころも(唐衣)
     (着)つつ馴れにし
      ま(妻)しあれば
       るばる(遥々)きぬる
        び(旅)をしぞ思ふ

 と、旅の心を詠んだ故事を語ります。



やがて日も暮れてきたので、

一夜の宿を貸そう、と僧を自分の庵に案内します。


女はそこで装いを替え、

美しく輝く唐衣を着て、透額(すきびたい)の冠を戴いた

雅びな姿で現れます。

能「杜若」


     透額の冠
透額の冠








 
 「能百十番」より


唐衣は先ほどの和歌に詠まれた二条の后、

高子(たかこ:清和天皇の后)のもの、

冠は歌を詠んだ業平のもの、と告げ、

自分は 杜若 の精 であると明かします。

小面
杜若の精の面(おもて)
  おもに若い女面が掛け
  られます  【 小面
 











さらに、

歌舞(かぶ)の菩薩(ぼさつ)の化現(けげん)である業平が

詠む和歌によって、草木までも仏法の恵みを受ける

のだと語ります。

杜若 の精 は、

業平の恋や歌を引きながら、昔を偲びながら幻想的で

艶やかな舞い(序之舞)を舞います。


夜が白々と明けてきたころ、

悟りの境地を得たとして、 杜若 の精は姿を消すので

した。

                     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ところで、

「あやめ」,「はなしょうぶ」,「かきつばた」 の見分け方、

ご存じですか 

菖蒲(あやめ)
アヤメ-a
 花弁の弁元に
 網目状の模様がある
 
 開花は、
 5月上旬~下旬


 
  (画像はWebより)


花菖蒲(はなしょうぶ)  
花菖蒲-b
 花弁の弁元に
 黄色い目型模様がある

 開花は、
 5月下旬~6月






杜若(かきつばた) 」 
811706-1920[1]

 花弁の弁元に
 白い目型模様があり、
 開花は、5月中旬~下旬           

水辺に咲く花なので
  さすがに庵にはありません )
   (画像はWebより)





花菖蒲の優雅な姿は、梅雨時のうっとうしさを

忘れさせてくれます。

でも、この梅雨いつまで続くのでしょうかネ~ 





 < シリーズ : 能と面の花物語 >
         

     ・ 第3回  能楽「石橋」 と 牡丹  ’11   5/ 6     こちら 
     ・ 第2回  能楽「桜川」 と 桜  
 ’11   4/ 1      こちら
   ・ 第1回  能楽「東北」 と 梅     ’11   3/11    こちら


能楽「石橋」と牡丹 5

春の庭は、次から次へと趣(おもむき)を替えてくれます。

庵の庭は、木蓮も咲き終わり

ハナミズキの咲く木の下に、

4色の牡丹の花が咲き出しました。

牡丹(四色)


牡丹 は、

「百花王」,「花王」,「花神」,「花中の王」,「百花の王」

などの別名があるように、

まさに “ 王者の風格 ” を醸(かも)し出しています。



能楽の世界では、

牡丹と云えば、五番目物 “ 切能 ” の 《 石橋(しゃくきょう)

でしょう 

能絵
 
     牡丹の花がついた台が2台、舞台上に置かれます。
      これが 《 石橋 》 を表します。




平安時代の中頃(一条天皇の頃)

三河守(みかわのもり)を退官した大江定基(ワキ:助演者)

出家して寂昭(じゃくしょう) 法師と名乗り、中国・インドの

仏教遺跡を巡ります。

中国の清涼山(しょうりょうぜん)[現在の中国山西省]にある

石橋
のほとりにやって来ます。


石橋とは現世と浄土を繋ぐという有名な橋と聞いて

いたので、これがその橋かどうか人に尋ねようと、

誰か来るのを待っていると、

一人の【童子(どうじ)(前ツレ)が現れます。

童子
 ⇐ 童子】の面
 
  童子】は神性を持った
  少年神の化身として現
  れます

雄門会HP






                      祐門会HPより 




童子】は、橋の向こうは文殊菩薩の住む

浄土といわれる清涼山であると教えます。

寂昭法師がその橋を渡ろうとすると、

この橋は人間が渡した橋ではなく自然と現れた

もので、幅一尺(30cm)も無く、苔が生えて滑り易く、

千丈あまり(約3km)におよぶ谷の深さを見れば

足がすくみ、気を失うほどで、並の修行者では

渡れぬ橋だと説きます。


橋の向こうは花降り、

音楽が聞こえる文殊菩薩の浄土であるが、

その音楽が夕べの雲とともに聞こえてきたので、

ここで待てばやがて菩薩如来が現れるだろう 

と言って立ち去ります。




寂昭法師が待っていると、

やがて、橋の向こうから文殊菩薩の足元を守る

百獣の王の獅子(シテ:主役)の親子が現れます。

石橋(観世)_「能の世界」(平凡社)
         石橋(観世)_「能の世界」(平凡社)より 




獅子口
 ⇐ 親獅子の
  獅子口(ししぐち)】の面

獅子口-a








 
石橋(観世)親獅子_能面の風姿

  白頭(しろがしら)を付けた
         親獅子の舞
 ⇒








                     能面の風姿(東方出版)より 



小獅子
小獅子(こじし)】の面



小獅子-a







 
石橋(観世)赤頭_能面の風姿
  赤頭(あかがしら)を付けた
        小獅子の舞 ⇒










                   能面の風姿(東方出版)より 


香り高く咲き誇る百花の王・牡丹の花に戯れ、

石橋
の上で獅子舞を舞ったのち、もとの獅子の座、

すなわち文殊菩薩の乗り物に戻ります。

( 文殊菩薩は獅子の背にいつも乗っていて、
  文殊菩薩像の足元には必ず獅子がいます )



獅子舞は各地に残っています。

歌舞伎でも能 《 石橋 をもとにした

鏡獅子」、「連獅子」などは人気曲ですよネ




先月の “ 春の嵐 ” で折れた牡丹の蕾は、

とうとう開きませんでした。

きっと、

開花する力が残って無かったんでしょうか?  (>_<)


でも、

 “ 雅勒の庵 ” の庭の牡丹は見事の咲き誇って

いますヨ~ 

牡丹(白)
      花芯がほんのりとピンク色の白の牡丹
      落ち着いた色合いが “ 親獅子  ” に象徴されます。


牡丹(深紅)-a

      「太陽」と云う品種の深紅の牡丹
      情熱的な赤が、荒々しい “ 小獅子 ” に象徴されます。

      折れた枝は、この牡丹ですが、
      咲いたとしてもこの色合いは出なかったでしょうネ~


牡丹(ピンク)

               ピンク色の牡丹


牡丹(紫)
                
紫色の牡丹


唐傘牡丹
        牡丹の花は、雨に弱いので ・ ・ ・
        唐傘で無くて、すみません m(_ _)m    
             

牡丹(黄色) 
 今はまだ蕾ですが、
 1~2週間ほど遅れて
 黄色の牡丹も咲きますヨ~
 

       (昨年の画像)      










 《 石橋 》 は、能楽の五番立ての演能のあとに

めでたく結ぶ意で添えられる祝儀の曲でもあります。


雅勒の拙いブログ 『雅勒の散歩路』 も、

5月で一周年を迎えます。


             -  口 上 -

  いつもご来訪ありがとうございます。

  昨年の5月16日に最初のブログ記事を載せてから、
  もうじき一周年を迎えようとしています。

  当初、ホームページ 『 雅勒の庵 』 を開設しましたが、
  能面・狂言面も奥が深く、色々と学んだ事や補足的な事など
  日々の “ 憶え書き ” のつもりでグログも開設しました。
  又、能面師・雅勒の日常を、好きな花木を通して知って頂く為
  の情報発信としても使わせて頂いてます。

  これからも、
  拙い文章で、マイペースで掲載していきますので、
 
  「 隅から隅まで、ずずずいーーー っと 拍子木
             宜しくお願い申し奉り ます 」






        < シリーズ : 能と面と花 >
             ・ 第2回  能楽「桜川」と桜      ’11  4/ 1
             ・ 第1回
  能楽「東北」と梅      ’11  3/11



        < 過去の牡丹関連記事 >
 
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嬉しい兆し            ’11  4/28
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能「井筒」 ☞ こちら
    



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